No.4-2002/Apr
 
平成維新  − 序章 −


これは去年の11月の話である
この日は毎年行われている<ゴット=前ベース>の12年目の追悼LIVEの日だ った

彼の話は、今年13年目という事もあって時期が近づいたらしようと思っています
よってここでは、割愛させて頂きます

この日仙台に向かう車中からNeedleはある事を心に決めていた
年齢に伴い、なかなか自由に振舞えない自分がいつしか日常のほとんどを
支配している
何時からだろう・・・?
刺激のない平凡な日常・・・まわりに言わせれば十分刺激的なのであるが・・・
腹の底から久しく笑っていない・・・有頂天・・・
ガキの頃は自分の存在意義を見出すため、敢えて<死>を隣接させ、それで も尚
腹の底から笑う事ができていたはずなのに・・・

そんな退屈な日常を蹴りトバすために、ゾクゾクするようなナニかを・・・

よおぅ、明日、山形行くべぇーよ

Needleが車中の沈黙をやぶる

山形ぁ?ナニしに行くんスかぁ?

訝しげにアツシが応える

ん〜 !? 芋煮会!

何んスかぁ、芋煮会って?

うつらうつらと夢と現実の狭間を漂っていたノムッチが馴染みのない単語に反応 する

判んねぇーの?ヒャハハッ!

何スかぁ?おしえて下さいよぉ!

イヤだっ!おしえないっ!

さすが<天敵>である
アツシは彼を弄ぶ事に生き甲斐を感じている
もしおしえても、もっともらしく嘘をつく
彼には決して本当の事をおしえはしないのである

トブんだよ!

トブんすかぁ?

そう!オマエはヒモ無しでねっ!

ノムッチだけじゃなくアツシまでもがこの会話に困惑する・・・
カオを見合わせる二人・・・<付き合ってるのか、オマエら!>

しかしソコはアツシ、Needleとの付き合いの長さもあるがノムッチとの
ポテンシャルの違いをまざまざと見せ付ける!

あぁー!バンジーっスかぁ?

日本で2番目に高いんだってよっ!

ここでNeedle以外のメンバーの心の中を、そっと覗いてみよう!

>アツシ
嘘だべぇーマジかぁ?勘弁してくれよぉー!
俺、高ぇートコ苦手なんだよねぇ!
けど俺のスタイルからいくと平気な顔してなくちゃいけないしぃ〜!

>ノムッチ
ナニ?ナニ?バンジーって?
ヤベェー、マジ判んねぇー!
ここで知らないなんて云ったらまたアツシさんにバカにされるから
知ったかぶりキメとこう!

>シン
マジでぇ〜、絶対ぇーイヤだ!
運転に夢中なフリして会話には混ざんねぇようにしよう!
どうせ打ち上げで朝まで呑んでるし、起きらんねぇよキット!


こんなそれぞれの想いを乗せ、一路、仙台へとクルマは走るのであった
恐怖へのカウントダウンはもう始まっていたのである



次回、仙台チームも火の粉を被る!

自分だけが巻き込まれるなんてイヤだ!オメェ等も道連れだっ!

そんな想いからテロリスト、本領発揮!

悪魔、再び降臨! 


  
平成維新   − 第二章 −


無事、追悼LIVEも終了し打ち上げの席でNeedle他、三人のメンバーは
明日の生贄を捕獲すべく狩猟を開始する・・・


ヒデキぃー、明日ナニやってんの?

えっ?いや別になんも・・・

んじゃー芋煮会行くべぇーよ!

いいっスねぇ!久々にぃ!


こんな調子で次々と何も知らぬ子羊?達が捕獲されていったのである  
彼らはそのほとんどが全身に刺青を施した精鋭達である
当日、突然バンジーだと告げてもよもや逃げ出すヤツはいるまい
この時点ではそう信じて疑わなかったのである・・・誰もが・・・


酔いもまわり宴も酣という頃、会場の隅で三人の男がナニやら怪しげに密談をし ていた
Needle、アツシ、そしてダイスケである
ダイスケとは仙台某有名HDショップの店長である
彼は過去一度バンジーをトンだ事があると云うので参考までに話を聞いていた のだ
しかし今ではこの話も灰色の疑惑のベールに包まれているのだが・・・

ここでダイスケが勝ち誇ったように注意事項を語り始めた・・・

その中である一つの注意事項にアツシが貪りつくように食いついてきた
それはこうである・・・

>失明の恐れがあるため、ヒドイ二日酔いの状態ではトベません

つまり血行がよい状態でトブと、トンだ時に頭部に大量の血液が流れ込む為に
眼球の毛細血管が破裂するというのだ・・・

マジでぇ・・・?

Needleが言葉を失うのも無理はない、常々LIVEの日は昼間のリハから呑み続 けている
今日だって間違いなく逝き過ぎている・・・

そんな中アツシは不敵にニタを噛み、水を得た魚のようにある男のモトへと席を 立った
 
その男の隣にドカッと座りこう云ったのである

ノムッチ!呑めっ!

テロリストの本領発揮である
ニヤニヤとニタを噛みながら彼に飲み干すよう促し、即座に空いたグラスに酒を 注ぐ
これを延々繰り返しているのだ・・・
もともと下戸であるノムッチはみるみる赤くなっていく

もう無理っス・・・

ノムッチがそう云おうモノならすかさず悪鬼の形相でアツシがこう応える

あぁ〜ん?俺の酒が呑めねぇってがぁ?

まさに悪鬼である、しかも目の前にはその様子をニヤニヤと眺めている悪魔まで もいる
テロリスト VS 悪魔として対峙した二人が今、最強のタッグを組んだ
彼に逃れる術はない・・・
ニヤニヤと頬の筋肉を緩めてはいるが、決して笑ってはいない冷たく光る悪魔の 双眸に
真正面から絡め取られた子羊は云われたままに呑む、そして呑む・・・

後日談ではあるが、彼はこの時、己の体が痺れていく事を薄れ行く意識の中で
僅かに感じていたらしい・・・


怨めしい・・・あぁ、怨めしい・・・

僕に勇者の剣があったなら・・・

そんな彼の悲痛な心の叫びも悪魔達の冷嘲の前に掻き消され神には届かない・・・


次回、男たちの挽歌!

どこまで己のプライドを貫き通せるのか?

漢ってナニ?



平成維新   ― 第三章 ―


現地へと向かう車中は異様なテンションに包まれていた・・・
この時点でバックレた者が数名・・・
そこで、その内の一人にこの場で罰を与える事にしよう

彼は仙台の青葉区中央で−Behind The Sun−というスケーター系の古着屋を経営しているのであるが、このテキストをアップしてから1時間58分以内に彼のショップに辿り着いた方には、全商品7割引でご提供する事を約束しよう
ただし、現金のみ、偽造カード等の類は一切受け付けません
店内に侵入したら、真っ先に『テキスト見たよ!』と彼に告げてやって下さい


一行を乗せた車は1時間ほどで現地へと到着した
この時点で未だ芋煮会と信じて疑わぬ者が一人・・・
彼もまた経営者である・・・
仙台の稲荷小路というところで−Cipher−という飲み屋を経営しているのだが
髪の毛をキレイに剃り込み、筋肉質な肉体を誇示するが如く黒のシースルーシャツを 常日頃から好んで着用しているのだ
判り易く形容するならば、<ブルーオイスター>と云ったところか・・・?
よくその厳ついナリで客が入るものだと、常々感心させられるものである

しかしそんな彼もその厳つい風貌とは裏腹に、超が付く程の高所恐怖症なのである
だからこそ彼の辞書には<バンジー>という言葉が存在しなかったのであろうか?

そんな彼に事実を告げ、車を降りる・・・
振り返るとそこには、ガックリと項垂れ不安と恐怖に押し潰されそうな己を
<漢>という一文字だけで、辛うじて繋ぎ止めている彼の姿があった

しかし彼を震撼させる本当の恐怖は、この後に待っていたのである・・・

各々が吊り橋の上から34m下の谷底を見下ろしている・・・
皆一様に表情が硬い・・・呑み過ぎという事もあるが、顔色がヒドク悪い・・・
それでも、そんな不安を打ち消すかのように強がってみせる

楽勝じゃん!たいした事ねぇーよ!

何処からとも無く誰かが吐き捨てる・・・会話が続かない・・・
しかし、もう来た以上トブしかねぇ!そんな空気に背中を押されるように
皆が踏ん切りのつかぬまま受付へと向かった・・・その時!

Needleのウエストバッグのベルトが切れた・・・
高崎にある某有名ショップで作った特注品である!
しかもこの日が使用2日目・・・
もちろん縫製技術は最高水準に達しているし、なによりも極厚のサドルレザーである

マジかぁ・・・嘘だべぇ?

本当にナニもしていないのである・・・前触れもなく突然切れた・・・

ウワァ〜不吉だぁー

ヤメましょうよ!もう!

俺だったらヤメますよ!絶対っ!

堰を切ったように今までの不安が男達から溢れ出す・・・

しかしここでイモを引く訳にはいかない・・・
何と言い訳しようが、ココまで来てトバなければ<負け犬>である
一生<負け犬>の看板を背負って生き恥を晒すぐらいなら、人間をヤメた方がマシだ
Needleはトブ事を決意する・・・そして皆にこう告げたのだ

俺が一番最初にトブから・・・

もしナンかあって目の前で俺が死んでも・・・

皆、ゼッテェーにトベよぉ〜

そう云って彼は受付に向かった・・・
後味の悪さを引き摺ったまま、それぞれが渋々金を払っていた・・・その時!
ブルーオイスターが絶叫した

お守りが無ぁ〜い!

先程、缶ジュースを買った時まで財布に付いてた祖母の形見なのにと
真っ青な顔で彼が力説する・・・

不吉だぁ〜!


次回このような状況の中で本当にトブのか?

否、トンでいいのか?

漢って・・・漢って・・・
 
 
 


平成維新  ― 第四章 ―


体重測定等の受付を済ませ、説明が施される会場の手前で待機する一行
そこでは彼等よりも先に到着していた学生たちが説明を受けていた
自分達の順番が来るまでその場で待機するわけなのだが、皆一様に落ち着かない
他愛も無い会話を交わしながら、消してはまたタバコに火を付ける・・・

そんな中、すぐ傍で行われているインストラクターの説明が聞こえてくる・・・
トブ時の姿勢だとか、細部に渡るまで事細かな説明が施されていた・・・

そしていよいよ彼等の番である
長い説明はカッタルイなぁ等と思いながらも、一応生死に関わる事だしと
其々がインストラクターの周りに集まった・・・
 
その中でブルーオイスターはなるべく安全に事を済ませたいという想いからか
一字一句、聞き逃すまいと耳に全神経を集中して来るべき瞬間を待っていた

ところが、インストラクターは先の集団の僅か10分の1程度の時間で説明を終了し
挙句の果てには、好きにトンで下さい!と宣うのである
 
エッ!? そんだけ?さっきと違げぇーじゃん!

足からトブとヤベェとか云ってなかった?キミぃ〜!?

面倒くさがんなよぉ〜!大切じゃん?ソレって!?

ソコに居た誰もがそう感じたに違いない!
しかしソコで<おいおい、待ってくれよ!>等とは口が裂けても云えない
云った瞬間、ヘタレの仲間入りである・・・それはどうしても避けたい・・・
誰もが大きな不安を内在させたまま、ジャンプ台へと向かったのである・・・


吊り橋の中央に位置するジャンプ台へと到着した一行・・・
心の準備をする間も無く、インストラクターにゴムを装着するよう促される
もちろん、約束通りNeedleが最初にトブ!
橋から外にタタミ1畳分程迫り出した待機所で、足にゴムを装着する
マジックテープの親分みたいなので固定するのだが、インストラクターが彼等の
風貌を見て慌てている様子である・・・
決してNeedleの目を見ようとはしないし、足首の辺りを凝視している
しかも、慌てていたせいかふくらはぎの辺りで固定したため足首まで下がると緩い!
ソレなのに彼は、<確認!フックよぉーし!>と云ってソソくさと消えて行った

そんな彼の後姿をNeedleは呆然と見送っていた・・・

程なくしてもう一人のインストラクターがジャンプ台へ立つように声を掛けてきた
促されるまま週刊誌程の更に迫り出した台へと移動する
 
かぁ〜、マジかぁ?

そこには想像を絶する恐怖が待っていた
周りをナニにも囲まれていない空中34mとはここまで怖いものか?
しかも足に装着したゴムがここまで重いとは・・・
手を離すと地獄の底まで引き摺り込まれそうな錯覚さえ覚える・・・
彼も想像力等、貧困な方ではないのだが現実は想像の遥か上を逝っていた

後ろ向きに台の上に立ち、深い溜息をひとつ吐き出した刹那、カウントダウンが・・・
 
嘘だべぇ、チョット待て!

Needleが心の中で叫んでいる!
後から聞いた話であるが、傍目にはカナリ余裕があったように映っていたらしい
しかもイキナリ後ろからトブわけだし・・・
しかし実際のトコロは心中穏やかではなかったのである

5・4・3・・・

速っ!なんだソノスピード?

そうなのである、秒針の倍ぐらいのスピードで1秒を刻むのだ
これでは心の準備などする暇さえない・・・

5・4・3・2・1・バンジー!

Needleは掛け声と同時にFuck Signをキメ、後方へと倒れて逝った・・・

後方へと加速していく中、最後になるかもしれないメンバーの笑い顔を見ながら
 
笑ってられるのも今だけだぁ!

そう彼は心の中で絶叫していたのである・・・

 
次回、悪魔が、テロリストがトブ!

 まさかまさかの光景が次々と!




平成維新   − 第五章 −


Needleに続き、爆撃特攻弐番機は悪魔であった
普段から紅い血が通っていないせいか、顔色は悪いのであるがこの日は何時にも増して青暗い顔をしている・・・
もちろん普段から口数も多い方ではないのだが、この日は格段に寡黙でもあった・・・

誰もが昨夜の疲れと慣れぬ早起きのせいで、調子が悪いのだろうぐらいに思い
気にも留めていなかったのであるが、実際のところ原因は他にあったようである・・・

Needleがボートに収容され、ホンの数刻前まで立っていた橋を見上げると
もうソコには悪魔が装備を終え立っていた・・・
 
ヒデキはケッコー楽勝っぽいなぁ・・・

彼はそんな感想をドコまでも蒼く高い空に吐き出し、少し眩しげに見上げていた

もうトンじまったかなぁ・・・?

そう思いながらも悪魔の勇姿を見たい想いから、彼は垂直に近い階段を駆け上がる
バンジーで一番辛いのはトンだ後の、この階段かもしれない・・・
二日酔いのおっさんの身体には涙とゲロしか出てこない・・・
 
やっとの思いで、Needleが上に到着するとソコにはまだ悪魔の姿があった
しかも、ナニやらモメている様子である・・・

どうしたん?

いやぁ〜・・・

小首を傾げたまま、言葉の続かないダイスケは微妙な表情を浮かべていた

そうなのである、あの悪魔がトブ事を躊躇しているのである
まさか・・・と誰もが目を疑うような光景である
しかも恐怖からか、彼のタコはレッド突入2秒前の回転数を指していた

トビますから手を離してくださ〜い

あぁ〜、解ってる・・・

インストラクターにそう促され、解っていると応えながらも彼は額に脂汗を浮かべたまま
微動だに出来ずにいる・・・視線は空を彷徨っている・・・

さぁ、手を離して下さい!

解ってんだぁ〜、チョット待てっ!

皆、待ってるんで早くして下さい!

うるせぇな、ゴラッ!ブン殴んぞぉ !!

いや、でも・・・

黙ってろっ、てめぇ!殺っちまうぞぉ、ゴラッ !!

とうとう彼の指針はレッドにトビ込んでしまった・・・
まさに怒髪天を突くと云ったところか、逆立った毛髪は風に嬲られメデューサの如く 其々が意思を持った毒蛇のようでもある・・・
然しながら、<ブン殴る!>そんな彼の意思とは裏腹に両の拳は硬く握り絞られ 無機質な鉄の柵を決して離せないでいる・・・
硬く握り絞った渾身の一撃をニヤついた顔面に叩き込みたい、しかし離せない・・・
ジレンマからくる葛藤に狂おしい程、顔が歪む・・・

そんな彼の姿を呆れた顔で見ていたインストラクターがこう続ける・・・

ハイ、ハイ、手を離して下さい!

んだっ、ゴラっ!離せねぇんだよぉ〜〜〜

こんな遣り取りを数分続けた後、彼は諦めたかのように覚悟を決め
切立った渓谷へとその身体を投じ、消えていったのである
<逆ギレ>まさに彼らしい結末である・・・
 
でもホントにキレんなよ!オモシロかったけど!

辛口テロリストの率直な感想である

ここで悪魔の名誉の為に一言、云っておこう
見ているのと、実際アノ場に立つのではまるで別次元のモノである
ハッキリ云って怖い、恐怖というモノの存在を確実に認識できる
私自身、数々の修羅場を潜ってきたわけであるが、それらとはまた別の感覚である
中には全然怖くないと云う輩もいると思うが、ハッキリ云ってそれはおかしい!
何らかの感覚が欠如しているのではないのだろうか?
恐怖とは危険を回避したり、生命を維持するのにとても重要な感覚なのであるし・・・
 

次回、真打ち登場!

彼はこの恐怖に耐えられるのか?

そう、彼は決して期待を裏切らない!

魅せます、彼の漢を! 逝き様を!




平成維新   ― 第六章 ―


いよいよ真打ちの登場である
彼もその風貌と普段の素行から、およそ恐怖とは無縁のように思われがちだ
否、この時までは誰もがそう思っていたに違いない・・・悪魔同様、楽勝だと・・・

彼、そう元テロリストであるアツシがトブ、準備を始める・・・
82でドラムを叩くようになって程無い頃から、彼を天敵と認知し常に虐げられてきた
ノムッチが吊り橋の中央から彼の様子を観察している・・・

チッ!まだ余裕あるなぁ・・・

細い鬚を繊細な指で撫で上げながら、小さな声で吐き捨てる

ゴム・・・切れればいい・・・

不図、彼の中にも内在する悪意がその鎌首を擡げる・・・
ナニか不様を晒したら、一生嘲笑い者にする為に彼の一挙手、一投足を食い入るように 注意深く観察している・・・

アツシが装着を終え、ジャンプ台へと移動するその刹那、彼の小さな異変を
目を皿のようにしていたノムッチは見逃さなかった
 
んん〜 !? 顔色悪くねぇ?

軽く小首を傾げながらよく目を凝らしてもう一度確認する・・・

おぉっ !? 間違いねぇ!しかも青白れぇ !!

細い目を更に細め、悪魔のような微笑が彼の顔に拡散していく・・・

その頃、もうトビ終えたNeedleと悪魔は吊り橋の袂にある展望台からその様子を
眺めていたのだが、もちろんそんな事には気付く由も無かった・・・
無論、”アツシは楽勝だぁ”ぐらい思っていたのである

ジャンプ台へ立った途端、突然彼はパーカーのフードを徐に被った
もちろんその姿を見て、誰もがソレは彼なりのパフォーマンスなんだと思っていた
唯一人、ノムッチを除いては・・・彼はソノ姿を見て、独りホクソ笑んでいたのだ

おぉっし!ヤッパ怖ぇーんじゃん !!

彼は小さなガッツポーズをキメ、湧き上がる喜びを噛締めていた

するとそれまで<漢>という一文字を支えに沈黙を守ってきたアツシに大きな異変が見られるようになる・・・やはりジャンプ台は侮れない・・・
ソコには魔が棲んでいて漢達の築き上げてきたものを悉く闇へと葬り去るのであった
蒼白く血の気の引いた顔、キョロキョロと落ち着かぬ視線・・・
やはり彼もまた悪魔同様、迫り上げてくる恐怖に堪えきれず絶叫してしまったのだ







コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ


おぉ まぁい がっ!

あぁ、やってしまった・・・
バンジーさえ無ければ長閑な、本当に長閑な渓谷に彼の絶叫だけが響き渡る・・・
どこまでも蒼く澄み切った、まさに日本晴れ・・・
木々達もマッ赤に色付いている・・・唯、彼は青い・・・
さっきセーブしたトコまで戻って、リセットしようか・・・?
そうだ!鬼武者、中途だったんだ !? そっちをやろう・・・

 
その後彼は極度の錯乱状態からか、カウントも中途で落下・・・
誰もが我が目を疑うような光景を素直に受け入れられぬまま、暫し呆然としていた

ん〜、天気いいなぁ・・・今日・・・

Needleがボソッと呟く・・・



次回、最終章!この事件が発端で維新が勃発!

アツシは己の尊厳を守れるのか?

そして注目の維新志士とは・・・・

最終章、― 落日 ― を待て!


   


平成維新   最終章 −落日−


異様な熱気をまだ引き摺ったままの帰りの車中・・・
LIVE、打ち上げ、睡眠不足での遠出・・・
本来なら東京へと向かう車中は寝息に支配されているものなのだが、この日は違っていた
肉体的には疲労のピークに達しているはずなのに、眼球の奥底に熱を帯び
精神的にはとても高揚していたのである・・・
筆者が過去に一度キリ、母親に頼んで連れて行って貰った8時だよ全員集合の
公開録画の帰り路以来の高揚状態だったかもしれない・・・

そんな中、普段なら口数も少なく帰路のほとんどを惰眠に費やしているノムッチが
この日は自らハンドルを握り、目を爛々と輝かせている
その因ところはもちろん、アツシのトビ様にあった・・・

アツシさ〜ん・・・

細い髭を撫でながら、細い目を更に細めノムッチがニタを噛む・・・

ナニ !?

ヒドク怪訝そうな顔で無愛想に吐き捨てる

ナ〜ンかガッカリっスねぇ?

ノムッチの顔から毒気を帯びた悪魔のような嘲笑が滴り落ちる・・・

ナニがっ!

声を荒げてアツシが応戦する

いやぁ〜ナンか・・・

バッカ、おめぇ演技だぞぅ!

誰も声すら出せなかったべぇ?俺だけだぞ、アノ状況で!

本当スかぁ?怖かったんじゃないんスかぁ?

チゲェ〜よ、バカだなぁオマエ!
 
でも初めて見ましたよ、あんなアツシさん !?

どんなだヨ!

マッ白な顔で目ん玉パチクリしてる・・・

バ〜カ、それも演技だっつーの!

あんな顔で云われても・・・説得力無いっスねぇ?

フンッ!まだまだだなぁ、ノムッチも!

いやっ、ナニ云ってももうダメっス!

ナニがっ !?

今まで俺ん中で、アツシさんがNo2ぐらいかなぁなんて思ってたんスけど
ランク、ガタ落ちっスねぇ?今日の見てるとナリタさんの次って俺かなぁ
なんて思っちゃいますよぉ!アツシさんが一番下でぇ・・・
もしかして・・・No2って俺っスかねぇ?

恐れ多くもコレが彼の維新であり、アツシに対する宣戦布告であった
彼は2年の歳月を費やし、やっとピラミッドを登り始めたのである
覇権争いとは無縁と思われた男にも野性の本能は確実に存在していたのである
他者よりも、より優れた遺伝子を残そうとする闘争本能・・・

然しながら、彼は生来保持するポテンシャルの低さを未だ自覚してはいない・・・
何故ならバンジー直後に食した食事にひとつも箸を付けれなかったのは彼ただ独り・・・
しかし、己のそんな醜態はこの時点で、彼の記憶に微塵も存在していないのである
3歩、歩を進めれば総てを己の記憶の奥底へ埋没させてしまう・・・

ある意味、とても幸せなそして素晴らしい能力ではあるのだが・・・
であるから、彼は己のトビ様もまるで覚えてはいない
きっと、自分はカッコ良かったんだろうぐらい思っているハズである
現実はそんなに甘くはない・・・彼のトビ様は皆様のご想像にお任せしましょう
今、貴方の脳裏を過ぎった映像・・・たぶんソレで間違いハズです・・・

近いうちに日本最高位のバンジーを制覇しに行くつもりです

この2人のおバカな覇権争いもまたアップさせて戴きます

暖かい目で見守ってやって下さい

決して愛らしい生き物ではありませんが・・・